京急新1000形フルノッチ

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蒸気機関車の構造と仕組み

文・写真:高Ⅱ 吉山優志

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蒸気機関車の迫力、それは老若男女問わず誰にでも感じられるものだ。蒸気機関車の魅力は、ディーゼルや電気で動く現代の車両にはない、大きな音、煙突から出る煙、外から見える大きな動輪などであろう。動力はもちろん、ブレーキをかけるときに使う空気、ライトなどに使う電気などもすべて蒸気から作られており、その複雑な構造は興味深いものである。
ここでは蒸気機関車の動く仕組みや各部の構造を説明していく。なお、本文はD51形やC57形など一般的な蒸気機関車を踏まえた内容で、特殊な構造・仕組みの蒸気機関車については考えていない。

ボイラー・蒸気の流れ

蒸気機関車で非常に重要な部位であり、まさに人間でいう心臓にあたる。
まずはボイラー後方の火室に石炭が入れられ、燃焼させることから始まる。乗務員の負担軽減や火力を補うために、重油併燃装置が取り付けられている機関車もある。火室の火床面積は一般的な蒸気機関車で約3m2で、大型機関車のC62では3.85m2とやや広くなり、小型機関車のC12形では1.30m2で、かなり狭くなる。機関車の出力(牽引する力)もこの火床面積におおよそ比例し、C12形の最高速度が約75km/hであるのに対し、C62形の最高速度は約130km/hである。
火室で石炭を燃やすことによってできた燃焼ガスや煙は煙管や煙室を通って、煙突から排出される。ちなみに、煙突から排出される煙は、動輪1回転あたり4回の強弱がある。

火室や燃焼ガスが通る煙管のまわりには大量の水で覆われており、ボイラーいっぱいに満たされている。水は火室や煙管と接しているところから徐々に温められていき、やがて沸点に達する。密閉状態のボイラーでは、水の沸点は100℃を超えるため、一般的な蒸気機関車では水の温度は約200℃になる。

煙室扉を取り外した様子

▲ 煙室扉を取り外すと、手前には煙室、その奥には煙管が通る多数の穴が見える。写真のD51形では大煙管が28本、小煙管が90本ある。

沸騰することによってできた飽和蒸気は、ボイラー中央の蒸気ドームにいったん溜められる。蒸気ドームの中には加減弁があり、加減弁の開きぐらいによってシリンダーに送られる蒸気量が操作される。加減弁の開きは運転室から機関士が操作している。
蒸気ドームから加減弁の操作により送られた蒸気は、このままシリンダーに送ると冷えて効率が悪いため、過熱装置へ導かれる。乾燥管を通った後、過熱管に入り大煙管の中を2往復してさらに蒸気を熱し、約350~400℃の過熱蒸気になる。
過熱管を出て、過熱蒸気はまずシリンダー上の蒸気室に入り、その後シリンダーへと送り込まれる。シリンダー内にはピストンがあり、この送り込まれた蒸気がピストンを動かし、ピストンの動きにより生じた力がクロスヘッドや主連棒を伝わって、最終的に動輪に伝わり蒸気機関車が動く。シリンダーでピストンを動かし、不要となった蒸気は煙室に導かれ、煙突から排出される。

ボイラー中央の蒸気ドーム

▲ 蒸気機関車のボイラー上にあるドームの中に、蒸気ドームと後述の砂箱が入っている。

走り装置

シリンダー内で蒸気がピストンを動かすことによってできた力(運動エネルギー)は、ピストン棒の後端にあるクロスヘッドに伝わる。このクロスヘッドが前後運動をすることにより、クロスヘッドと動輪の間に取り付けられている主連棒に運動エネルギーが伝わり、回転運動に変わって、主動輪にだけ運動エネルギーが伝わる。周囲の他の動輪には、主動輪との間に取り付けられた連結棒によって、運動エネルギーが伝わる。

C622の走り装置

▲ C622の走り装置。走り装置を直接目にすることができるのも蒸気機関車の魅力。

蒸気機関車には動輪のほか、先輪と従輪と呼ばれる車輪がある。動輪の前方にあるのが先輪、後方にあるのが従輪で、両輪ともに動力はなく、動輪だけでは支えきれないボイラーを支える働きなどがある。この先輪・動輪・従輪の配置を一般に車軸配置という。以下に車軸配置の一部をあげている。なお、以下の車軸配置の表記方法で、「2C2」といったアラビア数字とアルファベットによる表記方法が日本国鉄式で、「ハドソン」といった固有の名称による表記方法がアメリカ式である。

◆ 1D1 ミカド

先輪1、動輪4、従輪1で構成されている。写真のD51形などがこれにあたる。

D51

◆ 2C1 パシフィック

先輪2、動輪3、従輪1で構成されている。写真のC55形やC57形などがこれにあたる。

C55形

◆ 2C2 ハドソン

先輪2、動輪3、従輪2で構成されている。写真のC62形やC61形など大型蒸気機関車に多く見られる。

C62形

運転室

運転室では左に機関士、右に機関助士が乗務する。機関士は加減弁ハンドルや逆転テコ、ブレーキなどを使って実際に機関車を制御し、機関助士は石炭を火室に投入するほか、多種多様のバルブを操作している。運転室は基本的に開放状態になっている。真夏には運転室内が60℃に達することもあり、乗務員にとっては過酷極まりない。

C571の運転室

▲ C571の運転室

炭水車

蒸気機関車の走行に必要な水と石炭を積載した車両のことである。機関車本体と常時連結されているため、同一の形式番号が与えられている。検査時などに、機関車本体と切り離される。上部に炭庫、下部に水槽の二重構造になっており、炭庫は運転室側が深く、後方は浅くなっている。D51形で石炭8t、水20m2を積載できる。運転中に投炭を続けると、取り出し口付近に石炭がなくなるため、長時間停車する駅で後方の石炭を前方へかき寄せる作業が必要である。SLやまぐち号の往路では仁保駅、SLばんえつ物語の往路では津川駅で石炭をかき寄せる作業の様子を見ることができる。
炭水車を持っている蒸気機関車がある一方、炭水車がない機関車もあり、タンク機関車と呼ばれている。走行距離が短く、石炭や水の量の積載量が少ないために、石炭や水を機関車本体に積載している。C11形などがこれにあたる。

炭水車

● ここからは蒸気機関車にある細かい補機類について簡単に見ていく。

発電機

運転室寄りのボイラーの上に載っているのが発電機である。飽和蒸気によってタービンを毎分2400回転させることにより電流を発生させており、前照灯や運転室の室内灯のほか、ATS(列車自動停止装置)の電源用などに使用されている。蒸気機関車にはバッテリーがないため、運転中は常時発電している。

発電機

空気圧縮機

ブレーキ操作で使う圧縮空気を飽和蒸気から作っている。

空気圧縮機

給水ポンプ

ボイラー内の水は、蒸気の消費とともに減少するため、不足した分を水槽から補給している。これも飽和蒸気によりポンプを動かしている。

給水ポンプ

砂まき装置

砂まき装置は、上り勾配や駅出発時にレール上の雨水や落ち葉等により車輪が空転して牽引力を失うのを防ぐために、レール上に砂をまいて、レールと車輪の摩擦を減らす装置である。蒸気機関車だけでなく、ディーゼル機関車や電気機関車にも装備されている。砂をためておく砂箱は、先述の通り、ボイラー上のドームの中にあり、D51形で約580Lの砂が収容できる。砂箱が入っているドームでは、砂が動輪に向かう砂まき管を見ることができる。砂が必要なときは、運転室にある砂まきコックを機関士が倒すことにより流れだし、重力によって車輪そばまで砂まき管を通って落下する。

安全弁

蒸気機関車のボイラー上にある。ボイラー内の蒸気圧が規定以上になると爆発の危険があるため、この安全弁から蒸気を大気中に噴出させて減圧させ、規定の蒸気圧に戻す。安全弁は2個並んでおり、片方が規定蒸気圧の+0.3kg/cm2で、もう片方は+0.5kg/cm2で作動するようになっている。

安全弁

汽笛

汽笛の中を飽和蒸気が流れて振動することにより音が鳴っている。5つの共鳴箱によって音響を調和させている。

汽笛

【参考文献】

鉄道ジャーナル2012年6月号別冊

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