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特別企画「JR西日本のSL整備士に気になることを聞いてみた!」

取材 ● 洛星中学・高等学校 鉄道研究会 会誌班
協力 ● JR西日本 梅小路運転区、京都鉄道博物館

 我々は3年前の会誌「FULL NOTCH No.2」(当会HPにてWeb版を絶賛公開中)において、蒸気機関車を運転されている大井川鐵道に取材を行い、記事を執筆しました。今回はNo.2の特別延長企画として、またNo.5としての特集としてJR西日本 梅小路運転区の方にインタビューを行いました。No.2とは違って、今回のNo.5では「整備」という面でインタビューをさせていただきました。蒸気機関車の整備に携わっておられる梅小路運転区の方々のSLに対する思いなどをこのインタビューから読み取っていただければ、大変うれしく思います。
 またこの場をお借りして、インタビューの日程を調整していただいた京都鉄道博物館様と貴重なお時間をいただきました梅小路運転区の方々に深くお礼申し上げます。ありがとうございました。
なお、この文章ではご担当いただいた方の名前を伏せるため、名前の表示をしておりません。文章中に出てくる「私」という言葉はご担当いただいた方のことを指すものとして、ご覧ください。

Q.1 SLの整備のお仕事に就かれたきっかけとは何だったのでしょうか。

 JR西日本の業務にはいろいろな職種(乗務員、駅、保線、電気、車両など)がありますが、入社時にどの職種を希望して就職するかである程度決定されます。その中で車両部門として入社した中で、電車の整備か気動、あるいは機関車なのかはどの職場に配属されるかによります。特に現在SLの整備にあたっている熟練の社員は入社当初からSLに関係した職種に就きSL整備の技術にたけた社員です。
 今、若手社員と呼ばれているSL整備にあたる社員は、JR西日本の社員からSLの検査や修繕を行う検修を希望する社員を公募する制度があるため、他の業務から整備の仕事を希望された方もおられます。
私の場合は今はなくなってしまいましたが、鷹取工場(現 神戸市)というところで台車関係の仕事をしていて、現在もSLやまぐち号の牽引機として走っているC57-1でSLに携わり、それからSLの整備を本格的にやり始めました。

Q.2 SLの整備で大変なことはどのようなことでしょうか。

 電車の整備と違い、両数が少ないこと一両々に個性があることから、それぞれの車両の検修経験が必要ですが、4年に一度しか全般検査(すべての部品を取外し検査・修繕)がないため、ノウハウを蓄積するには4年に一度しかなく経験を積むには数年かかることになり技術の継承が難しいです。また交換が必要となった部品の調達も大変です。可能な限り自箇所での作製を考え、次にメーカーに作製を依頼しますが、高価なものとなるため、各地の静態車両の部品が使用できないか調査し、その上で譲っていただくことをお願いしなければならないこともあります。

Q.3 8両の動態保存機の中で整備が特に大変な車両はどの車両でしょうか。また、その理由をお聞かせください。

 8両それぞれに個性があり、どれもが大変な部分を持っていますが、やはり本線走行を行う車両(C57-1、C56-160、D51-200)については高速で走行することから整備基準がより厳しいものとなっており、安全を確保するためにも高度な技術が必要です。また、自動列車停止装置や運転記録装置など保安装置とよばれる装置の搭載が義務付けされており、電車同様最新の技術がもりこまれた仕様となっています。そのためこれらの装置を検査し、維持する技術も不可欠なものとなっています。

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▲本線運転を行う車両の1つであるC56-160

Q.4 SL整備の魅力とはどのようなものでしょうか。

 電車の整備と違い、機械化ができないことがあるため、昔のままの整備方法をとらざるを得ない部分も多くあり、油と煤にまみれながら大変な重労働を余儀なくされていますが、自分達が生まれてくる前から整備し、走り続けている機関車をこれから先も同じように走り続けるよう整備することで、お客様に感動された時の喜びがあり、後世に動く文化遺産として引き継ぐことに誇りを感じています。

Q.5 SL整備士にとってSLとはどのような存在でしょうか。

 SLは鉄道の魅力を後世に伝えるための一つのアイテムであり、鉄道の技術者として鉄道の保守技術の原点を学ぶために必要で整備士にとって重要な存在です。

Q.6 SL整備士として、SLが今後どうなってほしいと考えられますか。

 SLが営業線上から姿を消した理由として、整備や運転の難しさもありますが、エネルギー効率が10%程度であり、水の補給や石炭の積み込みが必要で燃料代がかさむこと、環境問題など到底電気機関車に勝ち目はなく、昭和50年に日本のレールから姿を消すことになりました。しかし、昭和47年に日本の鉄道100周年を記念し鉄道輸送を長く支えてきた功績を称え、末永く後世に伝えるため動態保存を目的としここ梅小路に集められました。今日までSLを動態として引き継いできた保守技術は鉄道技術の原点であり、これからもこの技術を後世に伝えることが今の梅小路で整備している社員の使命であると考えています。そのためには今の子供たちがSLの整備士を目指し、技術を継承していくために鉄道に魅力を感じていただけるよう、京都鉄道博物館と一体となって魅力づくりを進めることでこれから先も後世に引き継いでいけると考えています。

 以上、ここまでが今回短時間のインタビューの中で質問させていただいたことですが、多少の時間ができたため、いろいろSLに関して質問させていただきました。当たり前そうで意外と知らなかったことなど、ここからは1問1答形式でやらせていただきます。

SL企画2

▲SL第2検修庫に掲げられていた言葉


SLに関してー

Q SLの部品数はどのくらいでしょうか。

A SLの場合、約1万点の部品が使われています。

Q そもそもSLはなぜ石炭を使うのでしょうか。

A 日本でSLを使い始めたときに安定的供給可能で、安価な原料のものが石炭でした。SLが営業線から姿を消す直前には石炭と重油を混ぜて走らせる機関車もありました。また、重油だけで走る機関車も考えられていましたが、燃料漏れなど安全性の面から開発されませんでした。タイではとうもろこしを燃料に走る機関車もあるそうです。

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▲白い丸で囲まれている中にあるのが梅小路で使われている石炭。オーストラリアのものを使われているそうだ。

Q SLで使う水は硬水や軟水で変わってくるのでしょうか。

A 煙管がさびてしまうため、中性の水を使用するのが一番良い方法です。硬水から軟水にするためのものを硬水に混ぜて使用しています。

Q 圧力が高すぎるとどうなってしまうのでしょうか。

A ボイラー内の圧力が高すぎると破裂してしまいます。圧力を確認するために圧力計が設置されています。圧力計は2つ設置されていて、万が一1つ壊れてたとしても大丈夫なような仕組みがとられています。

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▲石炭を燃やすと灰になる。燃えがらは空中に飛ばないように水分を含んだ状態で保存されている。なお、灰を処分するにはさまざまな手続きが必要とのこと。

SLの本線運転、SLスチーム号についてー

Q SLまぐち号の牽引機が現地でトラブルが発生したらどのように対処しているのでしょうか。

A 小さなトラブルは現地にいるスタッフが修理を行い、大きなものは現地から梅小路の方に報告して頂いてから実際に現地に行き、修理を行っています。

Q 本線運転で安全面などで問題があると思いますが、どのように考えていらっしゃいますか。

A 沿線の警備の大変さや小さなお子様が蒸気機関車に触れることでやけどの危険性ががあるとことが問題である考えています。

Q 大きな音の警笛に苦情などは来ないのでしょうか。

A 技術を学ぶ鉄道を運転する中で安全確認などは大変重要であり、住民の方とお話をして理解していただけるように努めています。

Q 煙などによる被害ついてはどう考えていらっしゃいますか。

A その点についてはSLを運行する中で仕方のない部分もありますが、SLを運行する会社(JR北海道、JR東日本、JR西日本、JR九州、大井川鐵道)で集まって「SLサミット」とうものを開催しており、そこでSL運行に関しての問題点などを話し合っています。SLの騒音、煙などに関しては大井川鐵道さんを参考にしました。

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▲車庫に入るまではどうしても煙は出てしまう。

Q SLスチーム号の機関車が入れ替わるとき、いつから準備されているのでしょうか。

A SLスチーム号の機関車が入れ替わるとき、前日には次の機関車が準備されています。最初の火を落とした状態から走行できる状態にするまで、水を沸かすのに時間が約4~5時間かかってしまいます。

その他ー

Q SL整備士は社員の憧れだったのでしょうか。

A そうだといいのですが、違います。重たそうで油まみれなイメージがあるようです。嫌な人には「汚れるな」っていうイメージがあったみたいです。

Q 重連運転はやはり運転手の技術なのでしょうか。

A 昔は牽引力増加のためにやっていましたが、今やっている重連運転はイベントみたいな感じでやっています。同じスピードで機関車を走らせないと行けないので、やはり運転士の技術だと思います。

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